南青山にある美容室の計画。
敷地となる部屋は南東向きの一面に窓があり、部屋自体は小さいが、もともと開放感のある印象をもつ場所であった。この既存建物の窓を生かし、窓辺が生み出す風景を構想した。
 
美容師であるクライアントが動画配信を行うことから、明るく広がりのある空間が求められ、同時に32㎡の部屋の中にカットスペース5席を設けることを求められた。シャンプー台2台を含めると、これらをレイアウトするには余裕のある面積ではなかったことから、面積を効率的に使うためにカットスペースの鏡を窓際に寄せる配置となった。窓際にカットスペースを寄せると、入隅の部分がどうしてもデッドスペースになってしまい、5席を配置することが難しいという問題があったが、ここで、この入隅をスムージングし、曲線状とすると、5席が確保できることを見出せたことから、2辺が一体となった曲線状の大きな窓辺のカットスペースが生まれた。

このレイアウトは一方で、鏡によって窓の風景を遮ってしまうことになるが、水平に連続する曲線の額縁により、窓と鏡の高さを合わせフレームレスの鏡とすることで、窓の先の風景と鏡に映し出される室内の風景が混じり合うように、虚像と実像の風景が境界なく切り替わるスクリーンとなった。
客席カウンターが曲線の窓辺に沿って並ぶことで、それぞれ客同士が視線を交差することなく座ることができ、窓の風景を見ながら滞在することができる。また、この馬蹄型の平面レイアウトは、美容師や客の施術における動線を最大限、効率化した結果でもある。
 
窓辺の背景となる壁面の白いタイルは、明るく清潔な印象を空間にもたらし、光を反射することで座る人の顔色を明るく照らすことができる。小さなタイル寸法は曲面を作りやすく、コンセントプレート寸法と近似寸法のため、タイルと同じ寸法でプレートをつくることで、統一感のある壁面を作ることを意図している。
また、タイルそのものが持つモジュールと目地が作り出すグリッドによって、曲面壁の立体性を強調し明るさや空間的な広がりを作り出すとともに、実像と虚像が映し出される窓辺とは対比的に抽象的な背景となり、風景をつくるものたちのキャンバスとなっている。

ここにおいて鏡はその存在感を薄め、風景を抽出する環境的な存在となっている。
竣工   2025.2
用途   美容室
担当   小滝健司、高藤万葉
敷地   東京都港区
延床面積 32.76㎡
建主   株式会社CUTLINE
設計   建築 株式会社TOASt​​​​​​​
施工   株式会社smmk-work
写真   中山保寛写真事務所

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